自動車業界はいま、変革の局面を迎えています。電気自動車(EV)、コネクテッド・カー、データ駆動型生産に向けた自動車業界の着実な進化は、近年その速度を増しています。例えば欧州での EV 販売台数をみると、2018 年の 19.8 万台から、2022 年には 117 万台に拡大すると予測されており、電気およびバッテリーのテクノロジーへの投資は、今後 5 年間で総額 3,300 億ドルに上ると見込まれています。独メルセデス・ベンツまでもが、2025 年には生産を EV のみに移行すると発表していることを考えると、変化はすぐそこまで迫っているといえるでしょう。
自動車メーカー各社がコネクテッド・カーや自律型車載システムに注力するなか、クラス最高の機能を提供するための競争が各社で繰り広げられています。そこでは、エンジンやエンターテイメント・システムなど、あらゆるものがソフトウェアによって管理されます。ソフトウェアは、車の状態を継続的に評価・分析するためのデータを大量に生成し、データはテレメトリを通じてクラウドやオンプレミスのシステムに送られます。さらに、組み立てラインや生産設備もデータ駆動型へと変わっていきます。
この傾向は、かつては全くの別物であった、コンピューティング主導の情報テクノロジー(IT)と、エンジニアリング主導の運用テクノロジー(OT)という 2 つのテクノロジーを融合させることになります。そのため、自動車メーカーでは、サイロ化したさまざまなシステムから得られるデータの統合・分析を可能にする共通のフォーマットが必要になります(関連ブログはこちら)。データ管理におけるこのような複雑さを解決する方法は、ハードウェアを補強する機能と、全ての情報を共通のデータハブに集約する機能の両方を備えたソフトウェアの使用一択となります。
IT と OT の融合
自動車の生産ラインにおいて、IT は企業の内部インフラを支えるあらゆるものに関連しています。OT は、産業機械や装置の内部で動作するファームウェアやアプリケーションに関連しています。データ主導のアプローチでは、バックグラウンドが全く異なるこれら 2 つのチームが密接に連携しなければなりません。これは容易なことではありません。製造現場から取得したデータは、通常は専用の、場合によっては旧式の、機器ごとに異なるコードで記述されているためです。これらのデータを、IoT 機器のセンサー、クラウドベースのアプリケーション、コンピュータ・プロセッサ、ストレージ・システムなどの IT インフラと接続し、相互運用できるようにする必要があります。
このような複雑さを解決してデータを活用できるようにすることは、各自動車メーカーにとって極めて難しい課題となります。
課題解決のためには、まず、通信手段とプロトコルを共通化して全てのデータを統合プラットフォームに集約し、一元的に管理できるようにすることが必要です。このような統合型データ・プラットフォームの構築は、プロセスの簡素化、連携、合理化、リスクの軽減、市場投入の迅速化など、多くのメリットをもたらします。
筆者自身の経験からも、IT と OT の連携は極めて有用であることが実証されています。さまざまなメリットの中から、例を 3 つ挙げてみます。
- 開発プロセスの合理化により、生産性が向上する:
一例として、データ分析ツールを使用した、製造工程におけるボトルネックの検出が挙げられます。ボトルネックが特定できれば、次のステップは比較的容易で、より高速な機械に置き換えるか、スタッフを増員するかのいずれかです。また、データ分析により、能力を大きく下回る状態で稼働しているロボットを検知することもできます。この場合の対応策は、稼働率を上げるか、より小型のモデルに交換するかのいずれかとなります。 - セキュリティ更新やパッチの管理など、IT のベストプラクティスを運用システムに導入できる:
従来型の OT システムは、リモートでは更新できない場合があります。しかし、統合されたエコシステムでは、IT スキャンにより、少なくともリスクのあるシステムのインベントリを作成できるため、最新のファームウェアをインストールするまでの間はシステムをネットワークからエアギャップ(物理的に隔離)しておくことで、セキュリティ・リスクを軽減できます。 - IT システムを活用した産業機械の稼働状況の追跡により、運用 SLA の達成度が向上する:
機械の使用状況に基づき、担当者に保守時期を知らせます。適切な保守は機械の故障によるダウンタイムの発生を防ぎ、さらに、不要な定期保守を回避することでコスト削減を可能にします。
自動車業界向けのオンデマンド・データ管理
次のフェーズとして、今度は車両自体にも同じ IT/OT モデルを適用します。コネクテッド・カーには、1 台に 1,000〜2,000 もの電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、ブレーキ、油温、エンジン、トランスミッションなどを管理しています。コネクテッド・カー 1 台で、1 時間あたり最大 25 GB のテレマティクス・データが生成され、その一部は車両の外部と共有されます。
最終的には、これら全てのデータとテクノロジー・ソースを、データセンターとクラウドの統合プラットフォームに集約します。これは、オンプレミスとクラウドのワークロードに共通するソフトウェア・レイヤーを備えたオンデマンドのデータ管理プラットフォームを構築することを意味します。このプラットフォームは、テレマティクス・データの取得、分析、カタログ化、ラベル付け、統合、管理、供給などの方法を管理する役割を担います。また、プラットフォーム自体の所在(オンプレミス、クラウド、マルチクラウドのいずれか)も管理します。また、このプラットフォームは、ますます複雑化するテレメトリ・データの世界において、組織の前進を支援するものでなければなりません。このようなテクノロジーによって、生産ラインから取得した IT/OT データと車載の IT/OT データセットとを連携させることができます。
EV と車載ソフトウェア・システムが、自動車業界に大きな変革をもたらすことは明らかです。自動車メーカー各社では、ビジネス・モデルのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現と、それに伴って、かつては IT と OT に分かれていたシステムやプロセスの統合が急務となっています。扱うデータの複雑さと量は圧倒的です。IT と OT の大きな隔たりを埋める解決策は、適切なソフトウェアと、データやクラウドの種類を問わずに IT と OT 両方の膨大な情報を扱うことができる管理プラットフォームの採用以外にありません。
このトピックについて、皆様の感想やご意見をお待ちしております。組織の DX はどの程度進んでいるか、IT/OT の課題に対してどのような解決策をとっているか、そのなかでどのようなことを学んだか、皆様のご経験をぜひお聞かせください。
自動車業界においてデータ活用を促進させる方法については、eBook で詳しく解説しています。
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