HPC と EDA のワークロードのためのデータ・モビリティ ― オンプレミスから Azure クラウドへ

【03.08.2022 JST】チップの設計・製造において、知的財産(IP)の保護は極めて重要な課題です。コネクテッド・クラウドによるシームレスなデータ・モビリティのメリットを享受すると同時に、セキュリティ・リスクを軽減する方法をご紹介します。


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電子設計自動化(EDA)ツールを使用したハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)のワークロードでは、設計・製造プロセスのジョブを24時間365日連続で実行するために大量のコンピュート・リソースを必要とします。同じように、半導体企業では、チップ設計プロセスを加速して市場投入までの時間を短縮するために、インフラを迅速に、オンデマンドでプロビジョニングする能力を必要としています。

しかし、オンプレミスのデータセンターには、チップのシミュレーションに必要なコンピュート・コアをオンデマンドで拡張する能力に限界があるため、パブリック・クラウドを解決策として利用する企業が少なくありません。パブリック・クラウドの利点を活用して、モデリングやシミュレーションのためのコンピュート・リソースをオンデマンドで確保しようという対策です。実際に、Microsoft Azure をはじめとするパブリック・クラウド・プロバイダは、世界中のさまざまな地域で、コンピュート・コア、ネットワーク、データ・ストレージを拡張できる弾力性を提供しています。

チップの設計・製造に関わる知的財産(IP)は、半導体企業における極めて重要な資産です。そのため、システムオンチップ(SoC)を設計・製造する半導体企業は、セキュリティ上の理由から、チップ設計のプロジェクトで生成されたデータのパブリック・クラウドへの移行に消極的です。また、半導体企業がデータの保管場所を完全に制御できていない場合には、法的な問題が発生するおそれがあります。

コネクテッド・クラウド・アーキテクチャによるセキュリティ・リスクの軽減

コネクテッド・クラウド・アーキテクチャは、企業におけるチップ設計データをはじめとする知的財産のセキュリティ・リスクを低減させます。コネクテッド・クラウドは、Azure クラウドへの拡張を可能にする弾力性を備えており、オンデマンドのクラウド・バーストや、常時オンの持続的なワークロードに対応します。ブログ記事 “Scaling Software Builds in Azure with FlashBlade in Cloud-Adjacent Architecture”(英語)では、エクイニクス・データセンターに設置した FlashBlade® でホストするデータを例に挙げ、Azure VM で動作する EDA ツールの性能と機能について詳しく解説しています。

シームレスなデータ・モビリティ

本ブログでは、チップの設計・開発プロセスにおいて、オンプレミスのデータセンターからエクイニクス・データセンターへの、クラウドの利用を目的としたシームレスなデータの移行とステージングに焦点を当てます。FlashBlade は、オンプレミスとエクイニクス・データセンター間におけるファイルシステムの双方向レプリケーションをサポートしています。ファイルシステムのレプリケーションは、組織内での開発に必要な SoC データの移動を可能にします。また、ホストされているユーザーは、Azure のコンピュート・リソースをオンデマンドで拡張できます。

オンプレミスのデータセンターと、エクイニクス・データセンターの FlashBlade との間のアレイレベルのファイルシステムのレプリケーションは、下図に示すように、エクイニクスの仮想ルータを経由して行われます。オンプレミスのデータセンターからエクイニクス・データセンターの FlashBlade へのデータ転送に際しては、外部のネットワークやインターネットを経由することはありません。エンドユーザーは、FlashBlade およびエクイニクス・データセンター内のデータの所在を完全に制御できます。エクイニクス・データセンターの FlashBlade と通信するには、オンプレミスの FlashBlade に別のサブネットを構成する必要があります。

オンプレミスのデータセンターに設置した FlashBlade と、エクイニクス・データセンターの Azure クラウドとの間でのシームレスなデータ移動を可能にする構成
図1:オンプレミスのデータセンターに設置した FlashBlade と、エクイニクス・データセンターの Azure クラウドとの間でのシームレスなデータ移動を可能にする構成

オンプレミスの FlashBlade とエクイニクス・データセンターの FlashBlade との間でのファイルシステムのレプリケーション・テストでは、転送速度が 8 GB/秒、2.3 TB のデータ転送が 1 分未満で完了するという結果が出ています。また、ソースおよびターゲットの両方において、それぞれの FlashBlade 上でのチップ設計データセットのほとんどで 2対1 のデータ削減効果が実証されています。

レプリケーション・ターゲットは、エクイニクス・データセンターの FlashBlade です。ターゲットの FlashBlade にレプリケートされたファイルシステムは、NFS でマウントされた Linux ホストからは読み取り専用となります。一方、ソースの FlashBlade のステータスはプロモート状態(promoted)となります。

ソースの FlashBlade ファイルシステムは読み書き可能なプロモート状態(promoted)
図2:ソースの FlashBlade ファイルシステムは読み書き可能なプロモート状態(promoted)

レプリケーションには共通のスナップショットが使用されます。そのため、ターゲットのファイルシステムは、エクイニクス・データセンターの FlashBlade に、Azure VM からの読み書き操作を実行できるソースとしてプロモートできます。オンプレミスの FlashBlade 上のソース・ファイルシステムは、読み取り専用のファイルシステムとしてデモート状態(demoted)となっています。

ターゲットの FlashBlade にレプリケートされたファイルシステム specsfs2020 をプロモートして読み書き可能に
図3:ターゲットの FlashBlade にレプリケートされたファイルシステム specsfs2020 をプロモートして読み書き可能に

また、アレイレベルのファイルシステムのレプリケーションには、ソースとしてプロモートされたエクイニクス・データセンターにあるターゲットの FlashBlade にフェイルオーバーする機能があります。オンプレミスの FlashBlade は、ターゲットとしてデモートされます。セキュリティ上の理由で、エクイニクス・データセンターのファイルシステムに加えられた変更をオンプレミスのデータセンターにレプリケートし戻す場合に、この機能が役立ちます。

ファイルシステムのレプリケーション・プロセスは、オンプレミスの FlashBlade と、エクイニクスがホストする FlashBlade との間で完全な自動化が可能です。これには Ansible のプレイブックを利用できます。フェイルオーバーやフェイルバックの機能も、このプレイブックによる自動化が可能です。

データには重力があります。アレイレベルのファイルシステムのレプリケーションは、Azure クラウドやエクイニクス・データセンターにおけるクラウド・バーストのためのデータのステージングを可能にします。FlashBlade 間の高速なデータ・レプリケーションと、ソースおよびターゲットにおけるデータ削減効果により、コスト効率に優れた迅速なデータ・モビリティが実現します。以下の動画では、オンプレミスから Azure クラウドへの HPC および EDA ワークロードのデータ・モビリティについて、デモを交えて解説しています。

EDA ワークロードのクラウドへの移行は容易なことではなく、知的財産のセキュリティ、データ・ガバナンス、コスト、クラウドのロックインなど、さまざまな課題が障壁となります。ピュア・ストレージのソリューションは、これらの課題を解決し、さらに、EDA ワークロードの高速化を可能にします。